親父が、9月に入ってから急に調子を崩して、ものを食べられなくなった。
そして、飲み物さえ普通に飲めなくなった。
水を飲もうとすると、食道に入らず肺に入って、すぐに咳き込みはじめ、大変な苦痛を味わう。
自分の歯もほとんどなくなった。歯自体が歯茎から剥がれた、そんな感じだ。
ものを噛むことも、飲むこともできない。
飲み物にとろみをつけることで、なんとか飲み込める状態。
その変化に気がついてから医者を呼んだのだが、すでに水分不足で熱中症だと診断された。
それから、毎日のように点滴で水分、栄養を摂る生活が始まった。
点滴とはいえ、父には一日2〜3時間が限度だったようで、それ以上じっと静かに点滴を受けるのはかえって苦痛らしい。
水分と脂肪の点滴で、1日400カロリー。
普通の必要量からしたら全く足りないらしい。
入院すれば、もっと長時間の点滴で、もっと多くの栄養を入れることができるとのことだ。
しかし、父の場合は急病というわけではない。普段は痛みや苦痛は何も感じていないのだ。
血液検査をしてもらったが、結果は大変良好だった。
年齢は89。
この年なら、老衰で体の機能の衰えが顕著になったというのが医師の診断でもあり、息子の私もそう思う。
今更入院させて栄養を増やしたところで、以前のようにピンピン体力が回復するのは難しいだろう。
まして高齢の父が入院生活を受け入れられるとは到底思えなかった。
本人に聞くまでもない。
とにかく自分の欲求通りに、周りになんの遠慮もなく自由に行動し言葉を発する父のこと。
束縛された生活など強制したら、一日もたずに病院から脱走しようとするだろう。
それだけではない。
コロナ禍の影響もあり、今では一度入院したら、家族ですらまともに面会できない。短時間会えるのみ。
あとは全て病院に管理される生活。
この選択肢は最初からなかった。
弟と協力して面倒見ているが、弟も同感。
自宅でできる範囲の治療を受けながら生活を送ることが、本人も家族も満足できるものだと思い、この生活を続けてもう二ヶ月になる。
正直、家族にとっては負担は小さくない。
ただ、今は在宅勤務という形式が一般的になってきたおかげで、実家で親の介護をしながらも仕事を遂行できるので、ありがたいことだ。
以前なら、介護のために会社を辞めなければならなかっただろう。
世の中の時流的にはとても恵まれていると思う。
この生活も、最初のうちは、今日か明日死ぬかもしれない父のために頑張らなきゃと思って力が入っていたのだが、
二ヶ月経った今、自分の力が少し抜けてきた気がする。
少し気楽にこの生活を続けようという感じ。
いくら自分ががんばって介護したところで、なるようにしかならない。
それよりも父と過ごす時間をいかに楽しくするか、ということに集中した方が楽しいし、この上ない親父との時間の過ごし方だと思う。
力を抜いて、気楽に構えて、親父と過ごせる貴重な瞬間瞬間を、楽しんでいこう。
最後にできる親孝行だと思う。